長さんの腕の見せ所

映画監督の瀬川昌治の著書「乾杯!ごきげん映画人生」に、長さんの思い出が1章に渡って綴られています。
瀬川昌治が撮ったドリフ映画は、1975年の「ザ・ドリフターズのカモだ!!御用だ!!」と「正義だ!味方だ!全員集合!!」ですが、本の中では「カモだ!!御用だ!!」の撮影での話が書かれていました。
長さんは万年平刑事の役で、チンピラ役の加藤茶との掛け合いを中心にストーリーが進みます。
他の監督の映画ではどうだったのかは知りませんが、長さんは映画のシーンに色々アイディアを出して、実際にそれが採用されていました。
クライマックスとなる、警察とヤクザの面々が追いかけっこのシーンは、舞台となる結婚式場のセットを丸ごと作り、後は長さんに任せたそうです。
私は以前、松竹大谷図書館でこの映画の台本を閲覧しましたが、準備稿では追いかけっこのシーンは、ヤクザが経営する様々な風俗店(バーやサウナ風呂など)で展開され、そこにある仕掛けについても詳しく書かれていました。
次の段階の改訂稿では「結婚式場」としか書かれていなかったのですが、背景にはこういう事情があったのだと納得しました。
結婚式場で、駆け抜けていく長さんたちを避けようとトレーのグラスを落とさないようにフラフラするボーイが出てくるのですが、これがすわしんじで、長さんから彼を使って欲しいと頼まれたそうです。
1975年といえば、まだ志村けん東村山音頭でブレイクする前で、ドリフのメンバーとしての位置付けに迷走していた時期でした。
しかし瀬川昌治によると、長さんは志村けんの才能を既に見抜いていて、「あいつはオモロいネタを考えるんですよ。見掛けによらず頭がいい奴でね」と目を細めて語っていたといいます。
それにしても長さんにクライマックスシーンを丸々任せてしまう瀬川昌治も凄いものです。
もう一本の「正義だ!味方だ!全員集合!!」も、敵役との追いかけっこシーンがありますが、スラップスティックギャグが満載で、きっとこれも長さんに演出を任せたのではないかと思います。
それから他の章に、若かりし頃の居作昌果(全員集合のプロヂューサー)の武勇伝が載っておりました。
この本はスポーツ新聞に連載されていたものを加筆修正して今年の1月に出版されました。
最後の章では去年のラピュタ阿佐ヶ谷での瀬川昌治特集にも触れ、上映会が終わった後、これからの日本映画はどうなっていくのかと不安に襲われたと書いています。
若い女性の観客に支えられている今の芸能界の行き先を案じる一方、定年を迎える団塊の世代に期待を寄せています。
本物の味を知った大人の観客が増えれば、彼らのレベルに合わせた作品が増えるのは当然と述べていますが、さてどうなるのでしょうか。

乾杯!ごきげん映画人生

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